THE LAST PENGUIN...

日々考えたことや誰かの役に立ちそうなことを書きとめておこうと思います。

2018年、リニューアルを終えたロングバーとシンガポールスリングの素敵な変化。

singaporesling_longbar

改装され生まれ変わったロングバー(The Long Bar)に変化はあったのか?

最初店内に入ったときの印象は「なんだ、全然変わってない。」正直どこが変わったのかわからない。1920年代のマラヤ人の生活からインスピレーションを得ているといわれる店の作りもそのまま。
これまで植民地時代から受け継いだその遺産ともいえる歴史でここまで観光客を呼び寄せていたのだから、その期待を裏切っては意味がないので当然と言えば当然なのだが、店内に入るまでは正直改装ですっかり変わってしまっているかもしれないと心配をしてたいたので、「なんだ。」と思う反面少しほっとした。
 
ゆったりして気の置けないレトロな藤の椅子だったり、床に散らばるピーナッツの皮だったり。天井のファンはやはり植物の葉で編まれたうちわ状のもので、それもそのまま。天井の梁にそって規則正しくならんでおり一定のリズムで左右に動いている。もちろん今は電気で動いているのだろうが、昔はカウンターの裏でだれかが紐を引いたり緩めたり、を一日中繰り返して動かしていたんじゃないだろうか、などと想像してしまうやつだ。
 
ラッフルズホテル(Raffles Hotel)の近くを訪れた際、リニューアル改装のために休業しているThe Long Barがすでにオープンしていると聞いたのを思い出し、入り口のほうに回ってみたところ、ちゃんと前と同じ入り口があった。大きな看板もない、階段がそこにあるだけの、いつもの入り口。せっかくなので立ち寄ってみることにした。

甘いジュースのようだったシンガポールスリングの味に変化が。

私がここに来るのはいつも観光に来た友人や知人を案内するときなので、だいたい複数人でテーブル席に座る。でもその日は一人だったので、カウンター席をお願いした。正直、あの有名な「シンガポールスリング」は、あまったるくてジュースみたいなのであまり好きじゃないのだが、これからまだ用事もあるのできついお酒は無理かな、と今日はあえてシンガポールスリングをオーダー。
 
一口飲んで、あれ?と思う。こんな味だったか?
初めて飲んだ時、予想以上の甘さに驚いた。100年も前の当時の女性の社会的地位や彼女たちに求められる振る舞いなど、このカクテルがなぜ生まれなぜこれほどまでの名声を獲得したのか、その背景を知った時、その色や味に納得したものだ。それでもレシピは当時から少しずつ変化しているということだった。
しかし、このSingaproe Slingは甘くない。いや、ドライなカクテルに比べればもちろん甘いのだが、以前飲んだものとは明らかに味が違う。しっかりジンが効いていながら飲みやすい。店内のスタッフに聞いてみると、やはりレシピを変更したということだった。店内の様子はそのままでも、お酒の味は女性の地位や時代とともに変化していくものなのね、などと考えていると、突然、店内に「ゴーッ」というまるで頭上を電車が通り過ぎるかのような低い振動が響き渡った。

定期的に店内に響き渡るゴーっという音の正体は?

音のする方に目をやると、一人のバーテンダーがカウンターの端で鉄製の大きなカキ氷機のような、古いミシンのようなものを動かしている。あれが音の正体のようだ。私はカウンターの端にすわっていたので、最初遠くてわからずアイスクラッシャーの音かと思った。しかしよく見ていると、そのマシンにシェイカーをいくつもセットしている。それを台の上に乗り身を乗り出すようにしながら、力いっぱいぐるぐる回すとシェイカーが八の字にシャカシャカと回るのだ。なんだあれは??と思うのはほかの客も同じようで、一人の白人男性が歩み寄り、「自分にもまわさせろ」と交渉。見事にカクテルが出来上がると、店内に拍手が響き渡った。
 
決して最近のカフェで見るコーヒーマシンような近代的な機械とは似ても似つかないようないかにも古めかしい代物なのだが、あれは古くからあるものをリバイバルでもしたのだろうか?いやそんなはずはない・・・。それともロングバーのムードに合わせて設計?忙しそうなバーテンダーからはそこまで聞き出せなかったが、以前(リニューアル前)にはなかったのは確かなようだ。 
Raffles_sling _shaker Raffles_sling _shaker2

これがラッフルズスリングシェイカー。"Raffles Sling Shaker"金色の皿のようなところにシェイカーをのせ固定してからサイドにある円盤のようなところのハンドルをぐるぐるまわす。カウンターの内側から撮影。

ロングバーの新入りバーテンダー”Raffles Sling Shaker”

バーテンダーって意外にも専門性のある仕事だろう。お酒の種類というのは少しくらい勉強したところでとても覚えきれるものではないらしい。高級ホテルのメインバーともなれば、客がオーダーするのはメニューにあるカクテルばかりではないはずだ。そして、その注文の度、レシピを確認するわけにもいかないはず。即興で相手をうならせるものを提供しなければならない。すくなくともすし職人なみの経験は必要なんじゃないだろうか?その日もそんなプロ意識の垣間見えるバーテンダーが一人おり、オープンナーやメジャーカップを手にするたびにくるくると器用に回したりして、客を楽しませていた。
しかし毎回驚くのだが、このバーの特に昼間のオーダーは9割以上がシンガポールスリングだといっていい。混んでいれば10分ごとにカウンターにシンガポールスリングがずらりと並ぶ。「シンガポールスリング誕生」のストーリーに思いを馳せた観光客が押し寄せるのだから無理もないが、プロフェッショナルなスキルを持ち合わせたバーテンダーがこのオーダーに答え続けるのには結構な忍耐力が必要ではないだろうか?かといってシンガポールスリングだけ作れるスタッフだけいればいい、というわけにもいかないだろう。以前はこれを全部、ハンドシェイクで対応していたのだ。手首の腱鞘炎でやめちゃうなんてこともあったのか?意外にも、あの巨大な鉄製シェイカーは、このロングバーの現代の救世主なのかもしれない。それにしても、このロングバーだからあの存在感と音も楽しめる。近代的なバーのムードにはとてもそぐわないだろう。
ロングバー存続の救世主にして、プロのバーテンダー並みに顧客の関心を引きながら、そのムードにもマッチするなんて、なかなかのアイデアではないだろうか。1900年代初頭に再現できたであろう技術だけであれを考えたのなら恐れ入る。

気になるシンガポールスリングのお値段は?

さて、気になるシンガポールスリングのお値段。リニューアル直前はS$31でここ10年ほどで50%ほども値上がりしていると聞けば、シンガポールのインフレ率がわかろうというもの。リニューアル後のお値段はどうなったかというと「S$32」。1ドルのお値上げ。ただし、そこにサービス料とGSTが加算されるので、お会計時のお値段はS$37.65 である。
いくら物価高のシンガポールといえども、カクテル一杯のお値段としては結構な価格である。
なお、しばらくはドリンクのみの提供とのこと。お腹がすいていてもピーナッツしか食べるものがないので注意。

リニューアルされたシンガポールスリングの材料は?

レシピの変わったラッフルズホテル、オリジナルシンガポールスリングに入っているのはこちら。
・ロンドンドライジン
・ベネディクティン
・ルクサルド モラッコ チェリー
・フェランド ドライ キュラソー
・グレナデン(ラッフルズシグネチャー)
・パイナップルジュース
・フレッシュライムジュース
・アンゴスチュラ ビター
#SingaporeSling

singaporesling_ingredients

 
シンガポールで美味しいカクテルを飲もうと思えば大抵行き先は、高層ビルのルーフトップバーや近代的なインテリアのホテルなどになりがちではないだろうか。このロングバーのように、古き良き時代の面影の残る場所は随分と少なくなってきているはずだ。
すでにロングバーにいったことがある方も、まだない方も是非、リニューアル改装後のSingapore Slingを味わいに行ってみてほしい。

 

Raffles Hotel 
The Long Bar  
Opening hours: Daily 11.00 AM – 11.00 PM
Address: 1 Beach Rd, Singapore 189673
Phone: 6412 1816