昨今海外駐在や移住は特別なことではなくなっているが、我が家では将来海外移住や駐在という可能性もあまりないだろうと感じていた。したがって私の場合、将来英語環境に移る事を想定して子供に家庭での英語教育を意識したわけではない。ただ常々、子供にとって英語(語学)は勉強したり習ったりするものではなく「使って覚えるもの」であるべきだと感じていた。もちろん目的次第で勉強も必要になるのは承知だが、幼い子供の英語習得を考えた時の最初のステップとしては、できる限り習うより自宅や家庭で「使う」というイメージで英語を生活に取り入れ、自然に身近に感じることができるようにしたかった。
結果的には、子供が3歳の時にシンガポールへの移住が現実となり、検討の末(*別の機会に書きたいと思うがシンガポールの教育環境は非常に選択肢が多く、子供をどのような学校に入れるかは非常に悩むところ)ローカル幼稚園に行かせることとなったが、英語についてはほぼ抵抗なく、よく聞く「英語イヤイヤ期」といったことにも無縁で、幼稚園の先生からも「彼はこれまで英語環境にいたことがあるのか」ということを聞かれたくらいだった。そして意思疎通ができるようになるまでの期間も早かったようだ。一方初めて触れた中国語については、明確な拒否反応があった。
子供が同程度の年齢で海外移住した経験を持つ知人からも、子供が英語環境になじむのには少し苦労があったことなどを聞くと、日本で家庭でやっていたことが意外に役立ったのではないかと思うので少しでも幼児期の子供の英語教育を考える方の参考になればと思う。
- 1.自宅で一緒に英語の歌を歌う。
- 2.英語でアニメを見る。
- 3.英語でストレッチや、ダンス、ヨガなどを一緒にやる。
- 4.一緒に英語の本を読む
- 5.お風呂では英語で話しかける
- 6.外国料理を食べに行ったら、あいさつだけはその国の言葉で
- 7.世界地図を見る
- 8.旅に出る
1.自宅で一緒に英語の歌を歌う。
Youtubeで「kids, song」などと検索すると英語の子供向けの歌がたくさん出てくる。「一緒に」というところがポイント。一人で見せておいても効果は薄いとおもう。「Twinkle twinkle little star」等、知っている曲でいいので英語で一緒に歌ってみよう。日本語でキラキラ星を歌うのと一緒だ。ついでに英語版をレパートリーに入れるだけ。ちなみにYoutubeで一つ動画をみるとたくさん類似のおすすめ動画が並ぶ。いくつか再生しているうちに、子供が気に入ったものがあれば、お気に入り登録しておこう。Youtubeは玉石混合なのであれこれやたらにみるより、一緒にまた見たい動画を選ぶとよい。
2.英語でアニメを見る。
1とほぼ同様だが、日本語でアンパンマンやドラえもんを見始めるころになったら、そこに英語のアニメを加えると良い。まだ言葉が拙いうちは日本語のアニメだって全部理解しているわけではないので、英語版も抵抗なく楽しめるはずだ。うちではそういった英語アニメの中にも2つ、3つ、お気に入りができ、そのシリーズを繰り返しみていた。既に2歳、3歳になってある程度日本語が話せるようになっていると英語番組には抵抗を示すと思うので、子供の大好きなテーマで絵を見ているだけでも楽しいと感じられるようなものを選ぶとよい。そして、絵だけでストーリーを想像できるようなもの。見終わった後に一緒にどんなお話だったか確認し合うのもよいだろう。
3.英語でストレッチや、ダンス、ヨガなどを一緒にやる。
インストラクターが英語で声をかけながら一緒にやっているような動画を見ながら一緒にやると良い。自宅でならちょっとした隙間時間にできる。動きを一緒にまねるだけなので言葉にストレスを感じずに楽しめるはずだ。「kids, yoga, dance」といったキーワードで検索してみよう。
※歌を歌うのも、アニメを見るのもYoutubeだと、見せたくない広告動画に子供の関心がむいてしまうことがある。そういう場合はDVDを購入するのもよい。同じ動画を繰り返し見ることでストーリーにそった言葉を学べるし、時間を決めて見るのにも適している。
4.一緒に英語の本を読む
簡単な本でいい。うちでは最初は絵と単語がワンセットでたくさん並んでいるだけのものを、一緒に読んでいた。一通りおぼえた頃に「Which one is a car?」といった簡単な話しかけで、絵の中から選んでもらう。次は「Is this car red or green?」とか「What is this?」と指さして、英語で答えてもらう・・・といった感じ。幼児向けの英語の本を何冊か購入して、寝る前の絵本タイムのレパートリーに加えるとよい。
5.お風呂では英語で話しかける
バイリンガル教育というのは本来、一人一言語。子供に対してある人が日本語で話しかけるなら、誰か別の英語話者と英語で話す、というのが大原則になる。ただそのようなことは両親共に日本人の家庭ではむずかしいだろう。かといってこちらの気分次第でわかる単語や言い回しだけ英語というやり方では子供も混乱するはずだ。そこで私は、人で分けられないなら環境で分けよう、と考え、「お風呂で英語」を実践した。といっても堅苦しく考える必要はない。なぜならお風呂で使う言葉や言い回しは、かなり限られているのだ。たとえば、「服を脱ごうね。」「湯船に入ろうね。」「(おもちゃが)水に浮かんでいるね。(沈んじゃったね)」「寒くない?」「体を洗おう」「(追い炊きの)ボタンを押してくれる?」「ドアを開けてくれる?」「パンツとってきて」等々。
ちょっとハードルが高いと思うなら、まず一つだけ選んで2,3日同じことを繰り返し語りかける。くりかえしていれば子供も理解するので、覚えたころにもう一つ加える。そのようなやり方で英語の割合を増やしていけば、英語が苦手な方にも継続できるのではないだろうか。そのうちルーチンワードについては、理解できるようになってくる。
その他、湯船で一緒に簡単な英語の歌を歌をうとか、お風呂にiphoneを持ち込んでいるなら、お風呂で見るアニメだけは英語版にするのも良いかもしれない。
子供はすでにあなたが日本語を理解することを知っているから、その成果として子供自身が英語を発するようになることはおそらくない。それでもまずはそういった語りかけから文法の法則性を無意識に学んでいくし「英語を学びたい」という意思を持てる年齢になったときに、英語を発するまでの苦労は和らぐだろうと思う。
6.外国料理を食べに行ったら、あいさつだけはその国の言葉で
言葉を学ぶとき、その背景には文化がある。言語だけ切り取って学んでも習得はなかなかむずかしいのではないだろうか。そこで日常の中にある異文化とのふれあいを大事にしたい。私は、子供と外国料理を食べに外食に行くとき、その国のことや言葉等、自分の知っている範囲で子供と話をした。そしてそのような店にはその国出身のスタッフがいることもよくあったので、そんな時は挨拶だけはその国の言葉を教え、その国の言葉であいさつするように促した。もしその国の挨拶を知らなければ、そのスタッフに聞けばいい。仕事の邪魔にならない程度のコミュニケーションには快くこたえてくれるし、特に子供に対してはみんなとても優しい。
世界には日本以外にもいろいろな国があるらしいこと。日本語以外にも言語があり、自分とは異なる言葉で話す人もたくさんいるらしいこと。食べるものにもそれぞれ特徴があるらしいこと、等を自然に学ぶとても良い機会だ。大人にとっては知識として当たり前に知っていることも、日本しか知らない子供にとってはなかなか知り得るチャンスがない。こういったことを少しでも体験として学んでいくことで、英語を勉強することの楽しさや、異なる文化への興味が湧いてくると思う。
その他、その延長で食卓に並ぶ外国産の食材について話題を振ってもいいし、テレビで見る外国についてはなしをしても良い。英語とのふれあい、レストランでの経験、食卓のフルーツ、テレビで見た景色・・・そういったものがだんだんつながっていくと楽しいものだし、そこから子供なりの思いや考え、外の世界への関心等が生まれてくるのではないだろうか。
7.世界地図を見る
世界について書いてある本を、子供の年齢に合わせて用意するとよい。3歳くらいになったら、「今ここにいるよ。」「ママはここに行ったことがあるよ。」「この辺には動物がいっぱいすんでいるよ。」「このあたりは寒くて氷ばかりだよ。」「この辺はすごく暑くて砂漠があるよ」「カンガルーや、ワラビー等変わった動物がたくさんいるよ」等といった調子で絵や写真で表現してある本を一緒に見ながら話ができるようになる。だんだん「どうしてそうなのか?」という疑問もわいてくるだろう。もう少ししたら自宅に地球儀を用意しておくとよい。「国」についての話が出た時、自分で地球儀をもってきて「それはどこのこと?」といった感じで聞いてくるようにもなるだろう。
8.旅に出る
できれば旅に出よう。外国に行かれればいいが別に外国でなくともよい。国内だって所変われば名物もあるし、話す言葉や習慣に変化があることだってあるはずだ。その小さな変化が世界が広がるにしたがって大きくなり、多様になっていくだけの事なのだ。もちろん外国に出ればその変化はとても大きなものになる。環境、人種、言語、通貨、食べ物、季節・・・すべてが一変し、その体験がこれまで学んできたこととまたつながっていき、自分のいつもの環境を相対的にとらえることもできるようになるだろう。
ところで、よく聞く話に「あまり小さなときに旅につれていっても忘れてしまうから意味がない。」ということがある。だからせっかく外国に行くならもっと大きくなってからが良い、と。しかし本当に意味がないのだろうか。確かに大人になったとき、3歳の頃の旅の記憶はなくなってしまうかもしれないから、子供にとって「思い出」にはなりにくいかもしれない。 しかし成長の観点で言うなら、「日々の学び」というものは「それまでの学び」が前提になるものだ。前提として知っていることが多ければ多いほど、新しいことを学んだときに多様な解釈ができるし、深い理解ができるだろう。たとえばある国に行った経験なくしてその国の話を聞くのと、経験を持った上でその国について聞くのでは、理解の深さが異なる。日々その繰り返しだとすれば、ある貴重な経験をすれば、それはその後に来るすべての経験に影響を与えるかもしれない。小さな頃の旅の経験は決して無駄にはならないし、時間がたつにつれてその価値は増してゆくのではないだろうか。
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改めて書き出してみると、たいそうな教育ママのようだが、あまりそのようなつもりはなく、あくまで日々の生活の中、家庭で自然に楽しく学べたら、というのが私の思いだった。上記のことがらも、思い出したタイミングで実践した、という程度だ。 子供の学習の過程というのは本当に見ていて面白いものだな、と思う。ある時、ひらがなを教えようと思っても見向きもしてれくれなかった子供が、別の時には勝手に、本を見ながら画用紙に文字を書こうと格闘していたりする。きっとその子にとってはそうやって関心を持ったときがそれを学ぶのに最も適したタイミングなのだろう。
ことに語学学習と言うのは簡単ではなく、小さな頃に外国で暮らし流暢に英語を話している子供でさえ、日本に戻ったらみんな忘れてしまうと言うのもよく聞く話だ。ネイティブレベルで1つの言語を高いレベルに保つには毎日最低2時間はその言語に触れていなければ維持できないと言う。多くの努力をしても使わなければ忘れてしまうと言う性質も私が言語を勉強するよりも使うべきだと考える理由の1つである。 子供においては中学生、高校生、と成長してゆけばなおさら親の思いなどどこ吹く風で、まずは本人が興味を持たなければ言語の習得と言うのは難しいだろう。 親としては、できるだけ自然な形で取り入れられる環境を整え、ゆくゆく本人が本気で勉強したいと考えたときにこれまでの経験が少しでもその役にたてば良いと思っている。